第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
消えていく二人の姿が、脳裏に焼き付いて離れない。
少し高めのヒールの付いたサンダル。それを履いていても、煉獄のほうがまだ遥かに高かった。もし横にいるのが自分だったらと想像してしまうと、胸が締め付けられるようにキリキリと痛む。
(……煉獄か。そうだよな)
2学年で1番人気の男子と女子、これほど理想的なカップルがいるだろうか。それに比べて自分は、陽華と釣り合うような見た目の男でもない。
やはり自分との事は遊び…冗談だったんだと、今一度思い知らされた。
先日の昼休みや今までの陽華の行動が思い出される。自分に向けられたあの可愛い微笑みや優しさには、恋愛感情なんか少しもなかったのだ。
なのに自分は、少しは本気なのかもしれないと期待して……
「………期待か」
自嘲するように微笑むと、小芭内はその場から逃げるように足早に歩き出した。
そのまま予定してたショップに向かい、商品を受け取ると、何処にも寄り道はせずに地元に向かう電車に乗り込んだ。
来た時と同じように扉付近に立ち、流れていく景色を見る。おかしなものだ。ものの数十分で、あの時の気分とはまったく違う気分で景色を見てる自分がいる。
その感情が顔にも出てたのだろう。首の鏑丸が小芭内の頬にすり寄ってきた。きっと小芭内の気持ちを察して、慰めてくれてるのだろう。
「大丈夫だ、鏑丸」
鏑丸に微笑みかけ、その頭を軽く撫でてやる。
だってこうなることは、最初から予想してた。
別にどうってことはない。これでもう、五月蠅く付き纏う女から、開放される。
そうだ、いつも日常に戻る…それだけだ。