第4章 素直 前編【※錆兎】
可愛い店の一角に、向かい合わせに座り、楽しそうに甘い物を食べながら、談笑し合う二人を、普通に想像する。
錆兎の胸に、もやもやとした何かが渦巻く。
そんな錆兎の気持ちも知らず、義勇は嬉しそうに言葉を続けた。
「たまにアイツの頼みで、甘味処に一緒に行くんだが、陽華は甘い物には目がないんだ。いつも幸せそうな顔で食べてて、錆兎、お前にも見せてやりたい。」
そんなん、俺だって、見てーよっ!!
錆兎が心の中で、そう叫ぶ。
俺と義勇とで、そんなに態度が違うのか。
かなり心が落ち込んできて、錆兎は顔を軽く手で抑えた。
「どうしたんだ、錆兎?」
段々と視線を下に落としていく親友に、義勇が心配して声をかける。錆兎は深くため息をつくと、義勇と目線を合わせた。
「いや…義勇、充分だ。もう喋らなくていい。」
そう言った錆兎に、義勇は怪訝な顔で頷くと、「わかった。」と呟いた。
しかし、こうなってくると益々疑わしい。錆兎がチラリと義勇見る。
水筒に口をつけ、ゴクゴクと中身の水を飲む親友の横顔を見て、思った。
……普通にいい男だよな。こんな奴に言い寄られたら、俺だって落ちる。
錆兎はいい機会だと思って、勇気を出して、義勇に問いかけた。
「なぁ、義勇。率直に聞く、お前、陽華と…、」
そこまで言って、錆兎の言葉が止まった。
待てよ、聞いてどうするんだ?「陽華とやってるのか?」なんて、やってもやってなくても気まずい。
やってたらどうする?俺達、兄弟みたいに育って来たけど、こんなとこまで、兄弟になっちまったな?とか、言うのか?
やってなければ、経緯を聞かれるだけだし。
……有り得ない、聞けない。
錆兎が黙ってると、義勇は不思議そうな顔を浮かべた。
「錆兎、どうした?」
「あぁ…いや。お前って、陽華と仲いいよなー?」
とりあえず、当たり障りのない質問に変えてみる。
「そうか?…でも、そうだな。アイツとは、育ってきた境遇が似てるんだ。」
そう言って、義勇が穏やかに微笑んだ。