第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
次の日曜日
小芭内は電車に揺られ、家から二十分ほどの距離にある繁華街に向かっていた。姉にパシられ、受取りを希望していたショップで商品を受け取るためだ。
電車の扉付近に立ち、流れていく都会の景色を見つめながら、ふと片手をジーンズのポケットに突っ込むとスマホを取り出す。
そのまま片手で画面を軽くタップし、視線を画面へと移す。軽く時刻を確認するそぶりをし、画面上の通知欄に視線を向けた。
(……ない…か)
その事実に、小芭内の気分が少し落ち込む。
(ハッ…また俺は……)
すぐに落ち込んだ事実を否定するように首を左右に振って、スマホをポケットの中に捩じ込んだ。
陽華とLINEの交換してから数日が経つ。あれから引っ切り無しに、陽華から連絡が来るようになっていた。
それは本当にどうでもいい日常の出来事や、おはようやおやすみなどの簡単な挨拶ばかりの内容なのだが、その度に気分が高揚して、次はまだかと待ちわびている自分がいる。
この気持ちが何なのか、もうわかっている。
全て認めてしまえば楽になるのか、それとも新たな苦悩の日々が始まるのか、自分でもまだわからない。
小芭内は「はぁ…」と深く息をつくと、流れていく景色に視線を戻した。
目的の駅に着いて外に出ると、小芭内は目の前に広がる雑踏を見渡し、再び軽くため息をついた。
繁華街は苦手だ。人が所狭しと犇めき合い、前へ進むことも困難だし、何よりもリア充どもが楽しそうに人生を謳歌しているのを見ると、胸焼けを起こしそうになる。
「鏑丸、さっさと終わらせて帰るぞ?」
小芭内は首に巻き付いた鏑丸にそう申告し、目の先で数え切れないほどの人が信号待ちをしているスクランブル交差点を目指し、足早に歩き出した。