第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
「じゃあ、今度の日曜日っ………、あっ…駄目だ、その日は用事があるんだった」
思い出して、残念がる陽華の顔を見て、小芭内の気分も少し落ち込む。
(ハッ…、俺は何を残念がってるんだ!)
小芭内は気を取り直して、軽く咳払いすると、ぶっきらぼうにこう告げた。
「そんなに急ぐ必要もないだろう」
「そうですね!……じゃあ先輩、予定を合わせたいので………その………LINE…交換しませんか?」
陽華の瞳が小芭内を探るように覗き込む。その瞬間、小芭内の胸がドキンっと大きく跳ねた。
「…………………いいぞ…別に」
待ちかねていたことを悟られないようにたっぷりと間を開けて返事する。
「やったー♪」
陽華はいそいそと肩からストラップで下げていたスマホを掴むと、画面をタップする。
そして交換を終えると、可愛く微笑んで、嬉しそうに帰って行った。
陽華が去ると、小芭内は改めてスマホの画面を見つめた。その画面のトーク欄に並ぶ、母親や姉妹以外の、初めての女の名前。
気を抜くと顔が緩んでしまいそうになるのを、小躍りしてしまいそうなのを、必死に堪えながら、小芭内は足早に家路についた。