第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
「彼女、物凄くいい娘なんです。先輩とのこと、ずっと応援してくれてて、頑張ってね…て、送り出してくれるんです」
「そうか。………だが、他にも…いるんじゃないのか?お前は見てくれは悪くない。男友達…とかもたくさんいるだろ」
言っておいて、自分は何を聞いているのかと思う。やはり昼間の実弥との会話を引きずってるのかもしれない。
変に勘ぐられぬよう平然を装った視線を送ると、陽華は慌てた様子で元から大きな瞳をもっと大きく見開いて小芭内を見ていた。
「そ、そんな男子いませんっ!クラスで話すくらいの男の子はいますけど、プライベートで遊ぶような男友達なんてほとんど……」
そんな陽華の言葉に、安堵する自分がいる。
陽華はそんな小芭内の様子を探るように、チラリとその横顔を見た。
「……だから先輩?今度一緒にどこか出掛けませんか?」
陽華の言葉に、小芭内の鼓動がドクドクと音を立て始めた。
「どこかとは、どこだ?」
「例えば…街で映画観たりとか……お買い物したり、あとは…カフェでお茶したり……とか?」
(それはまさか………俗に言う、デートとかいうやつか……)
陽華と二人きりのデート……?
未知数過ぎて、何も想像出来ない。そして何よりも、そんなリア充の真似事のようなこと自分に出来るのか、自身がない。
「俺はそんな暇……」
ではないっ!そう言いかけたところで、頭の中に、昼休みに言われた実弥の、
『あんまり拗らせてばっかだと、すぐに他の男にかっさわれんぞ?』
の言葉がフィードバックされる。
小芭内は息を呑みこむと、軽く呼吸を吐き出した。
「………べ…別に、行ってもやらないことも…ない」
「えっ、本当ですか!?」
陽華が嬉しそうに微笑む。