第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
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「…でね。」
そう言って、陽華は真菰の顔を視線を向けた。
「結局、名前は言いそびれちゃったんだけど……、でもそれ以来私は、『小芭内くん小芭内くん!』て、伊黒先輩に付いて回るようになってね。伊黒先輩もそんな私を上手くあしらいながらも、妹分として可愛がってくれて………」
「ん、妹分??今と扱いそんなに変わらないじゃん?…で、まる子呼びの方は?」
「うん、…それはまる子のまま。でもね、他の子に呼ばれるのと違って、小芭内くんに呼ばれるのって、なんか凄くくすぐったくて、甘酸っぱくて、嫌じゃなくなっちゃったって言うかぁ……」
そう言って頬を軽く染める陽華に、真菰がげんなりとした顔をする。
「真正の伊黒馬鹿だね。」
「だって、あの頃の小芭内くんて、凄くちっちゃくて……本当に可愛かっただもん♡」
「今でもちっちゃいじゃん。」
ギロリと陽華に睨まれ、真菰は「すいません」とペコリと頭を下げた。
「でも、それから暫くして、私は両親の海外赴任が決まっちゃって、この街を離れることになっちゃったの。小芭内くんとはそのまま、さよならすることになったんだけど……、でもね!」
陽華が真菰にグッと詰め寄る。
「次会う時までに、絶対に可愛くなってやる!!って、カロリーや栄養素調べて計算して、糖質制限や運動して、ダイエットに励んだの!」
「それで今に至るわけね?……でも、伊黒先輩には思い出して貰えなかったんでしょ?」
「うぅっ。………それは、私の見た目も変わっちゃったし、何より本当の名前も知られてない訳だし……、仕方ないとは思うんだけど。」
「でも不死川先輩は気付いてくれたんでしょ?やっぱり伊黒先輩って、薄情じゃない?」
「ち、違うもん!確かに、不死川先輩と鏑丸くんには気付いて貰えたけど、不死川先輩の言うには、伊黒先輩の女嫌いはさらに悪化してて、もう女は全て、[芋か南瓜]くらいにしか見えてないんだって!」
そこで陽華は「はぁ…」とため息をついた。