第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
「…だから、ちゃんと個人として認識されたら、自然と思い出すって言ってくれたんだけど……、そこに至るまでが難しくてさ、ちょっと挫けそう。」
陽華が「はう…」と落ち込んだように俯くと、真菰は励ますように肩をポンポンと叩いた。
「元気だしなよ!真菰ちゃんもまた、お兄ちゃんから情報仕入れてあげるからさ。頑張ってこ!!」
「真菰、ありがとう!!」
「よしよし。でもそろそろ真菰ちゃんのことも構ってあげないと、拗ねちゃうかもしんないけどね。」
てへ♡と可愛く笑う親友に釣られて、陽華も微笑んだ。
・
「……氷渡はどうした?」
最近、恒例と化してきた、屋上のお昼ごはん会に陽華の姿が見えず、小芭内が実弥に問いかけた。
「ん?……なんだ、俺だけじゃ寂しいってかァ?」
「そんな事はいっていない。」
「担任に呼び出されたから、職員室に寄ってから来るってさ。アイツ、クラスで副委員長してるらしいからなァ。」
持ってきた弁当の包みを開きながら、さらっと答える実弥に、チラリと視線を向ける。
「不死川お前、氷渡の動向に詳しくないか?」
「あぁ。俺、陽華とLINEで連絡取り合ってるからよォ。」
ヒラヒラとスマホを眼の前で振る実弥に、小芭内の顔が微かにムッとする。
(また名前を堂々と……、しかもLINE!?俺でさえ、まだ何の連絡先も聞いてないと言うのに……)
軽く動揺が走る。しかし絶対にさとられぬよう「そうか」と静かに答えた。
「そういや、村田も知ってるらしいぞ?陽華のLINE。」
「っ!?」
今度こそ、隠しきれない動揺が微かに顔を出てしまった。
「だから、なんだ?」
村田以下だとでも言いたいのか!?
そう心で毒づきながら、実弥に冷たい視線を向ける。が、実弥は反対に「別にィ…」と含むような視線を小芭内に向けてきた。