第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
先程からの強気な態度と違って、今は瞳を自信なさげに伏せている。そんな少年の姿を見て、陽華の頭に先程のこの少年が苛めっ子達に言った言葉が過った。
『人の見た目を揶揄し、集団でその欠点を非難する』
もしかしたら、この少年もそんな状況にあったのかもしれない。
「ううん!そんなことない!」
陽華は少年の前に回り込むと、その顔を顔覗き込んだ。
「貴方の目、本当に綺麗よ。だって…」
陽華の伸ばした手が、少年の前髪を掻き上げる。
「両方ともキラキラと輝いてて、まるで宝石みたい。」
「なっ!?」
「全然不気味じゃないよ?私、大好き!」
陽華が満面の笑みを向けると、少年は微かに照れたように目線を下げた。
「お、おかしな女だな!」
「フフッ、貴方もだいぶ変わってると思うけど……、ねぇ、名前はなんていうの?」
名字は先程から聞こえていたが、名前はまだだ。
「伊黒……小芭内だ。」
「宜しくね、小芭内くん。それに鏑丸くんも。…私は、「おーーい、伊黒ォー!!」
陽華の言葉を遮り、後方から大きく小芭内を呼ぶ声が聞こえた。
きっと小芭内にとっては聞き慣れた声なのだろう、無意識に陽華の肩口から後方へと視線をやった。
その声の持ち主は、先程苛めっ子達を追い掛けて消えた組長と呼ばれた眼光の鋭い少年だった。
名を不死川実弥だと説明された。
「アイツらは、再起不能なまでに脅してやったから、暫くは大丈夫だろォ?」
若干、その顔でそんな事を言われたら、苛めっ子達の安否も気にならないではないが……
「ありがとうございます。」
取り敢えず素直にお礼を述べた。
「それよりも伊黒ォ、今日は商店街の和菓子屋でおはぎの新作が出んだよっ!急がねェーと売り切れちまう!!」
「あぁ、そうだったな。……じゃあ、まる子、またな。」
「あっ…だから、まる子じゃ……」
慌てて訂正するも、二人はすぐに陽華に背を向け、歩き出してしまった。その後ろ姿に陽華が声を掛ける。
「二人とも、今日はありがとう!!」
二人は振り返ると、陽華に軽く手を振って返してくれた。