第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
「かぶ……ら丸?」
「あぁ、俺の相棒だ。」
少年は蛇に視線を向けると、その頭を指先で優しく撫でた。
「アイツらには、鏑丸の恐ろしさをその脳裏に十二分に植え付けてやったからな。思う存分、仕返ししてやればいい。」
「その蛇ちゃん、本物…なの?……触ってみても大丈夫?」
「あぁ。」
陽華が恐る恐る指先を近づけると、鏑丸は嬉しそうにチョロチョロと舌を動かし、その指先に頭を擦り寄せた。
「か、可愛い!!」
「そうか。鏑丸もお前を気に入ったようだ。まぁ元々、コイツは無類の女好きでもあるが……」
呆れた顔の少年が鏑丸の頭を指の腹でちょんっと叩くと、鏑丸は怒ったようにシューシューと音を立てた。そのやりとりに陽華が「フフッ」と楽しそうに笑った。
「なんだお前、やっぱり可愛いじゃないか。」
「ふぇっ!?」
陽華の顔が真っ赤に染まった。今まで異性に、一度も面と向かって可愛いなんて言われたことはない。
初めての経験に口をアワアワさせて黙り込む。そんな陽華の前で少年は考えるように顎に手を当てた。
「これはもしかしたら、余計なことは言わずとも軽く微笑んでやるだけで、本当にあの馬鹿どもを黙らせることが出来るかもな。」
「ん?」
ブツブツと呟く少年の顔を、陽華が首を傾げながら覗き込む。
「それってどういう…………、あれ?」
何かに気付いた陽華の瞳が、驚いたように見開かれる。その瞳が何に驚いたのか、それに気付いた少年は、しまった!とばかりに、慌てて目元を手で覆いながら顔を背けた。
「貴方の目……」
「そんな…まじまじと見るな……」
「え?……どうして?」
「……俺の目は左右で色が違うんだ。……そんなの…不気味だろ?大抵の人間はいい顔をしない。」