第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
「ていうかやべーよ……、この蛇男が伊黒って奴なら、そろそろアイツが……」
何かに気付いた一人の少年の顔が、蒼白になっていく。すると……
「んァ?蛇男たァ…誰の事だァ?」
すぐ後ろから禍々しい声が聞こえ、少年達がゆっくりと振り向くと、その背後に人を数秒で射殺せそうな眼光を放った少年が立ちはだかっていた。
「うぁっ、やっぱりっ!!ヤクザの組長まで出てきたっ!逃げろーー!!」
いじめっ子達が蜂の巣を突いたように逃げ出した。
「くらぁーー!待ちやがれっ!!」
それを組長と呼ばれた少年が追いかける。その背中に蛇の少年が声を掛けた。
「不死川、ほどほどでいいぞ?」
「おうっ!適当に脅して帰ってくらぁー!」
組長少年が軽く手を降ると、蛇少年が陽華に声を掛けてきた。
「あの馬鹿どもは、不死川に任せていれば大丈夫だ。」
「しな…ず…?……あの…ありがとう。どうして……」
「別にお前を助けたんじゃない。俺はああいった低俗な人種が心底気に入らない、それだけだ。」
そう言って首に蛇を巻いた少年は自分の顔を隠すように、軽く目を背ける。
「それと…まる子とやら…」
「え!?ち、違います、私まる子じゃ……」
「ちょっと前から見ていたが、なぜ言い返さなかった?」
「それは……」
「あういう輩は、弱い所を見せればすぐに図に乗りつけ上がる。」
「で、でもっ…、言い返してもっと酷いこと言われたらどうするの!?」
微かにその瞳に涙を溜め、蛇の少年を見つめる。そんな陽華の姿を少年は横目でキッと睨みつけた。
「だったら、その数倍…いや数千倍の言葉で言い返せ!」
「えぇ?」
「奴らがもう二度と、歯向かって来れないほどに絶望を与え、痛めつけ、捻じ伏せてやればいい。」
「そ、そんな…、貴方は頭がいいから、出来るかもしれないけど……、それに男の子だよ?怒って痛いこととかされちゃったら……」
陽華が瞳が不安そうに揺れる。すると少年の目がフッと優しさを帯びた。
「だったら…その時は、俺の鏑丸を貸してやる。」