第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
いつも何かに付けては、陽華をからかい、ちょっかいを掛けてくる男子達だ。陽華は身を護るように視線をサッと下に下げた。
「まる子は今日もまんまるだな。お前、身体が大きすぎてさ、遠くから見てもよくわかるぜ?」
一人の男子がニヤけながらそう言うと、もう一人、背の高い男子が陽華の前に立ち塞がる。
「つーか俺さ、席順こいつの後ろなんだよ!横にデカすぎて黒板見えねーんだよな。先生に言って替えてもらっおかなぁ。」
あははと馬鹿にする三人の笑い声が、校庭に響くと、陽華は悔しそうに唇を噛み締めた。
(嘘つき。背の高さはそっちのほうがあるんだから、見えないなんて絶対に嘘なのに。)
そうは思うが、下手に反抗すれば、男子達を煽ることになりかねない。陽華はだんまりを決め込み口をギュッと閉じると、三人の隙間を抜けようと一歩踏み出した。
「おい、待てよ!」
だが、すぐに通せんぼされてしまい陽華はその威圧に耐えられずに、怯えるように後退りした。
ドンッ!
「あっ…、」
後ろにいた誰かと打つかった。
「ご、ごめんなさいっ!」
振り向き、慌てて相手に謝罪する。
打つかった相手はおかっぱ頭に、顔にマスクを付けた小さい少年だった。しかもなぜか…首に白い……、
「え、蛇!?」
「おい、女。下がる時は後方を確認しろ。」
「は、はいっ!」
[蛇]の言葉には一切触れられることなく相手に注意され、大きな声で返事する。
そのやりとりを見ていた苛めっ子の一人が二人に声をかける。
「まる子、気をつけろよ。こいつちっさいんだから、お前の重量で打つかって潰れちゃったらどーすんだよ。」
「うぅ……」
とうとう陽華は耐えきれずに、瞳一杯に涙を貯めて、視線を下げた。
すると、その小さな少年が、陽華の後ろから蔑むような声で呟いた。
「フンッ、人の見た目を揶揄し、集団でその欠点を非難する。低俗な人間どもの極みだな。」
「おっ、なんだコイツ。何か難しいこと言ってるぞ?」
少年達が陽華を押しのけ、蛇の少年の前に躍り出た。