第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
「だってあんまり好きじゃない、伊黒先輩のこと。陽華の話しを聞いてると、いつも扱いが本当に酷いんだもん!」
真菰の言葉に陽華は驚いた。
「まさか真菰、私の代わりに怒ってくれてたの?」
「当たり前だよ!陽華がどんなに好きな人でも、私は陽華を虐める人なんて絶対に許せないよ!」
鼻息荒く捲し立てる真菰に、陽華はフフフと小さく笑った。
「真菰、ありがとう。……でもね、伊黒先輩は本当は優しい人なんだよ。」
「えー?」と不服そうな声を洩らす真菰に、陽華が苦笑いを浮かべた。
「ちょっと恥ずかしい話だったから、真菰にはまだ話してなかったんだけどね。……私、小さい頃に、伊黒先輩に助けて貰った事があるんだ。」
「へぇ…そうなんだ。そう言えば昔、キメツ町に住んでたって言ってたね?私はその頃、ここにいなかったから、知らないけど…」
「うん。……あの頃の、ここに住んでた時の私ね、ちょっとこう……フォルムが全体的に……まるっとしてたの。」
「えーーそうなの!?今じゃ全然わからないよ!?」
目を見開いて驚く真菰に、陽華が気不味そうに頬を掻いて頷く。
「だからね、クラスの男子にからわれてイジられることが多くて……、あだ名もね、丸々してるから[まる子]って、付けられて……」
「なにそれ、ひどいっ!」
真菰が怒りも露わに鼻を鳴らす。
「フフ、ありがと。」
もうだいぶ前の事なのに、今の出来事のように怒ってくれる真菰の優しさが嬉しい。
「そんな時なんだ、伊黒先輩…小芭内くんと出逢ったのは……」
ー 数年前・キメツ学園初等部
「よー、まる子!今帰りか?」
放課後の校庭。下校時の陽華をクラスの男子達三人が引き止めた。