第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
「へぇ…、おにぎりにまぶしたりも出来るんだ、これいいかも。えっと…他は………」
真剣な表情でレシピを探す。
すると突然、後ろから肩を叩かれた。
「きゃっ!!」
驚いて後ろを向くと、そこには親友の真菰がいた。
「真菰、何でここにいるの??」
「それはこっちの台詞だよ。………つか、渋いの持ってるね?」
真菰が陽華の手に握られたとろろ昆布に視線を向ける。
「これ?なんか伊黒先輩の好物なんだって。」
「へぇ、なんか…っぽいね?伊黒先輩って古風だし、時たま武士みたいな喋り方するもんね。」
「フフッ、なによそれ。」
思わず二人で笑い合う。
それから二人は目的の物を手持ちのカゴに入れながら、スーパー内を一周した。
「で?真菰は何でいるの?」
「今日はおじいちゃんがさ、[キメツ学園大掃除大会]の打ち合わせで遅くなるって言うから、私が夕飯担当なんだ。」
真菰の祖父はキメツ学園の用務員を努めている鱗滝左近次だ。近々、全校生徒全員参加のイベント、学園中を隅から隅まで綺麗にする[キメツ学園大掃除大会]が控えている。だからその打ち合わせなのだろう。
「そっか、真菰も大変だね。」
そんな世間話をしながら、二人は会計を済ますとスーパーを出た。
「ねぇ、伊黒先輩の好物を買ってるってことは…お弁当作戦成功したの?」
買い物袋を手に、商店街を横並びに歩きながら真菰の問いかける。すると陽華の眉間に微かにシワが寄った。
「うーん。一応好きな味だとは言われたけど……どうなのかな?」
「え、すごいじゃん!あの嫌味魔人の伊黒先輩にそこまで言わせたんなら、大成功だよ!」
「なんかさっきから先輩の事、ちょいちょいdisりすぎじゃない?」
陽華が心外そうな顔をすると、真菰は反対に怒ったように口を尖らせた。