第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
だからだろうか、ガリガリの細身の女には少し嫌悪感がある。
「女はどっちかと言うと、健康的で、ある程度柔らかな丸みのある方が愛嬌があって……、っ!?」
小芭内の脳裏に突然、科学室の実験台の下での出来事が蘇る。陽華の柔らかな……、あの…プニッとした感触が思い出され、身体が固まったかのように立ち止まった。
「先輩、どうしました?」
「いや、なんでもないっ!!」
慌てて振り払うと、陽華から視線を逸らす。絶対に今、顔が赤い。マスクをしていて良かったと心から思った。
「でも先輩って、筋肉が無いわけじゃないんですよね。それどころか、ギュッと締まってて、抱きついた時に気付いたんですけど、胸板だって意外と逞しくて……」
「ば、馬鹿っ!その話をするなっ!」
やっと振り払った記憶を呼び戻され、小芭内が軽く声を荒げて突っ込むと、陽華はえへへと可愛く微笑んだ。
「でも何か、トレーニングとかされてるんですか?」
「そんなものはしてない。俺は完全なインドアだ。ただ……」
小芭内の目が、遠い空を見詰める。
「不死川といると、何かと難癖を付けられやすくてな。昔からおかしな連中に絡まれることが多い。それを相手にしてるうちに、知らない間に力が付いてた。」
「そ、そうなんですね。不死川先輩、さすがは組長ですね。」
[組長]の言葉に、小芭内がフッと顔を緩ませた。
「懐かしいな、不死川の子供の頃のあだ名だ。…………ん?なんでお前がそれを知ってる?」
「えっ!?あっ…それは……、初等部からキメツ学園に通ってる同級生の子に聞いたことがあって………」
また不審に目を泳がせる陽華。
いつもはっきりと主張してくるくせに、時たま挙動不審な動きをする。