第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
一緒に歩き始めてすぐに、陽華は違和感に気づいた。なんだか、いつもの忙しない感じがない。
いつもなら、早足で去ろうとする小芭内を追い掛けて、こっちも必死になるんだけど……
もしかして、歩くペースを合わせてくれてる?
その事に気付いて、陽華は嬉しさに顔をニヤけさせた。
「先輩、今日の昼休み、楽しかったですね。明日は何が食べたいですか?」
「明日も来るつもりなのか?」
「はい!明日はもっと栄養のあるもの、たくさん作ってきますね!」
陽華がやる気満々に答えると、小芭内は「フー」と息を吐き出す。
「昼間も言ったと思うが、俺の胃に入る量は極端に少ない。お前がどれだけ持ってきてもそんなに食えんぞ。無駄だ。」
素っ気なく答えてくるが、食べる前提で話してるところが嬉しい。陽華は嬉しそうに微笑むと、パッと小芭内の前に出て、その顔を覗き込んだ。
「駄目ですよ!先輩には、もっとたくさん食べて貰わないと!」
「うっ…、いきなり進行方向に出てくるな!」
はっきり言って心臓に悪い。
しかしそんな小芭内の反応を気付くこともなく、陽華の視線は小芭内の身体に向く。
「これ以上、私より細くなられたら、乙女的には複雑です!」
その言葉に、小芭内は呆れた表情を浮かべ、鼻を「フンッ」と鳴らしながら、陽華の横を抜けて歩き出す。
「女はどうして、そんなくだらない事を気にするんだ。うちの家の女どももそうだが、やれ、何キロ太った、カロリーが、糖分が…と、見た目ばかりを気にして中身が足りてないことに気付いていない。くだらないことに時間を費やすぐらいなら、内面を磨け。」
陽華は小芭内の後を追いかけながら、頬をプーっと膨らました。
「女の人は、好きな人の前では綺麗な自分でいたいんです!」
うちの女どもには、そんな純粋で高尚な理由なんて皆無だと思うが。奴らの理由なんて、人からよく見られたい、チヤホヤされたい、優位に立ちたいくらいなもんだ。
その為に無理なダイエットをし、仕舞には小芭内の体型を揶揄して、嫌味を言ってくる始末。