第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
あの眼光の元、平然と嘘を付く陽華に小芭内は呆れた。しかし実弥の反応はまったく違った。
「そうかァ。……じゃ、頑張れ。応援してやらァ。」
「えっ!?」
「何を言ってるんだ、不死川っ!」
「いいじゃねーか?こんなカワイ子ちゃんに好きだなんて言われることなんざ、そうそうねェーだろ?」
「騙されるな!この女は、俺をからかってるだけだっ!」
「そうかァ?さっきお前を好きだって言った目、アレは本気だったぜェ?」
それに自分の睨みに臆しない女なんて、実弥の記憶にあるかぎり、二人目だ。一人は今、同じクラスにいるが。
感心して陽華の顔を目を細めて見る。すると実弥が突然、驚いたように軽く目を見開いた。
「お前……どっかで会ったことあるか?」
「ふぇっ!?……いや、その、……同じ学校なんですから、そりゃ学校ですれ違うことだって……」
「いや、もっと前だァ……、どっかで……」
さらに食い入るよう顔を見てくる実弥に、陽華は距離を取ると、慌てた様子でこういった。
「あっ!!私、用事があるの忘れてました!!それでは先輩方、お先に失礼しまーす!」
勢いよく頭を下げると、すぐに背を向けて走り出した。
陽華が去ると、小芭内は戸惑った顔で、実弥の顔を見た。
「不死川…、お前なんであんな事……」
「俺にはあの女が、嘘をついてるようには見えねェからな。それに…あの女……」
突然考え込むように目線を下げる実弥に、小芭内が訝しげに眉を顰める。
「どうした?」
「いや、なんでもねえ。俺はもう行く、誕生日会が待ってるんでなァ。」
「あ、あぁ。また明日な。」
意味深な言葉を残して、粋に去っていく親友の姿を、小芭内は首を傾げて見つめた。