第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
「伊黒、この女かァ?お前につきまとっているっつー女は。」
「不死川、お前…なんでそれを……」
実弥の言葉を聞いて、小芭内の顔に衝撃が走る。自分はひた隠しにしているつもりだったが実弥にはすでに気づかれていた。
「あぁ、村田から聞いた。」
「くそっ、またアイツかっ!!」
あのヘラヘラと笑う村田の顔を思い出して、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
しかしすぐに小芭内の頭にある疑問が湧き上がる。
いや、待てよ。村田のヤツがいかに優秀な情報屋だったとしても、陽華のことは誰にも言っていないはずだ。学校でも町内でも、それほど人に見られてないはず。(今日は部員達に見られてしまったが…)
「……村田のヤツは、何処から情報を得たんだ。」
考えが声に出たようで、ポツリと呟く。すると陽華が疑問を解消するように言葉を発した。
「あっ、村田さんは私の情報源としても、活動しててくれて……」
「お前の情報源も村田かっ!!」
アイツ、次に会ったら鏑丸を首に巻き付けて、落ちる寸前まで絞めてやるっ!
そんなことを考えていた小芭内の横で、さらに近づいてきた実弥が陽華の前で立ち止まる。
するどい眼光を放ち、実弥は陽華を威嚇するように見下ろした。
「お前よォ、本気なのかァ?」
「え?」
「伊黒への気持ちだァ。」
「本気です!私は伊黒先輩が好きです!」
その辺の下っ端ヤンキーなら、しょんべんチビリながら逃げ出してしまうほどの眼光。陽華はその眼光を真っ直ぐに受け止めると、自分の気持ちを実弥にはっきりと告げた。
「お、お前はまたそんな事……」