第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
それから更に数日が経ったある日の昼休みのこと。
「今日は天気がいいから、屋上で食べねェーか?」
との、実弥の提案を受け、屋上に上がった小芭内を待ち受けていたのは実弥と、ニコニコ顔で佇む陽華の姿だった。その手にはお弁当の包みを携えて。
「何でお前が、ここにいるんだ?」
「今朝、下駄箱で不死川先輩会ったんです。そしたら昼休みに伊黒先輩と屋上でお昼ごはん食べるつもりだから、一緒にどうだ?って、誘ってくれたんです。」
小芭内の質問に笑顔で答えると、実弥と顔を突き合わせて、「ねー?」と、微笑み合う。
その姿を見て、小芭内は呆れた顔で実弥の顔を見た。
「ん?あんだよ、その顔はよォ。せっかく陽華が、お前のために来てくれたんだ。飯くらい一緒に食ってやりゃあいいじゃねェーか。」
何時の間にか、名前呼びになってるし。一体いつからそんなに仲良くなった?
疑問に思う小芭内の前で、実弥の擁護にコクコクと陽華が頷く。
「それに大勢で食べたほうが、楽しいですもんね!!私、親が二人共仕事で家にほぼいないから、あんまり人とご飯食べたことなくて。」
「そうか?大勢で食べても楽しくない時もあるぞ?」
親や姉妹達、親戚達、大勢で食卓を囲んでも、そこに小芭内の居場所はない。その苦い記憶を思い出して、さらっと否定する。
「そうなんですか?じゃあこれからは私が楽しくしてあげますね♡ほら先輩、あーんしてください。」
陽華が自分のお弁当の卵焼きを箸で掴んで小芭内の口元に運ぶ。が、小芭内はそれを拒否するように顔を背けた。
「やめろ。」
だって眼の前に意味深に微笑んでる、とっても楽しそうな実弥がいる。
小芭内は陽華を完全に無視すると、持参した弁当の包みを解いて、蓋を開けた。