第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
しかしこんなことでは、もうめげない。
視線を逸らした小芭内にチャンスばかりに、陽華はゆっくりとさりげなく、躙り寄りを試みる。
直ぐ近くまで寄ると、顔を寄せ、耳元で小さく囁いた。
「昨日、あんなに身体を密着させて、キスまでした仲なのに……、私…悲しいです。」
「っ…、」
近づいた陽華の身体から、昨日の感じたあの仄かに甘い香りが漂い、昨日の記憶と感触、今朝の夢がリアルにフィードバックされる。
(ぐっ…、このままだと、またコイツのペースに………くそっ!)
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ!!
突如小芭内が、凄い勢いで陽華とその周りの空間全てにアルコールスプレーを撒いた。
「きゃっ!」
陽華が慌てて非難するように距離を取る。
「俺の半径1メートル圏内は、女は立入禁止区画だ。二度と近寄るな、変態女。」
「部長、準備が整いました!」
陽華を牽制する視線を向けていると、部員から声を掛けられ、小芭内はロケットへと視線を移した。
「わかった、開始しろっ!」
「了解です!」
その合図に部員の一人が、ロケットに空気を入れる。
「3……2……1……発射!!」
全員の合図で放たれたロケット。
一発目と同様、激しい水しぶきを上げて、空に舞い上がる。それ見ていた陽華が「わぁっ!!」と歓声を上げた。
「すごーい、ペットボトルロケットってあんな飛び方をするんですね!初めて見ました!」
驚きと興奮の入り混じった、キラキラとした笑顔を小芭内に向けてくる。
それは昨日の昼休みや、今朝方夢で見たあの妖艶とした笑顔では無く、ただ純粋に眼の前の出来事を楽しんでる、そんな無邪気で可愛い笑顔だった。
ドクンっ
一瞬、鼓動が波打った感じがして、小芭内が眉間にシワを寄せ、胸を軽く抑える。
(なんだ…今のは……、)
頭が混乱する。しかし、すぐに勘違いだと思い直した。昨日の出来事と今朝の夢、あの出来事が小芭内を惑わせているだけだと……、
「わぁ、先輩見てくださいっ!!」
その声掛けに、小芭内は無意識に顔を上げた。