第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
朝から伊黒家が騒がしかった日の放課後。
小芭内は科学部の部員達と校舎裏でペットボトルロケットの実演をしていた。
「3……2……1……発射!!」
プシャッー!!
水を激しく噴射させながら、ロケットが宙を舞う。
ロケットが地面に着地すると、メジャー持った部員が走り出し計測していく。飛距離が告げられると、少し離れたところでその実験を見ていた小芭内は手に持ったノートに実験結果を記入していく。
「部長ーー、やっぱり飛距離が伸びませんね」
着地地点の近くにいた部員が小芭内に声を掛ける。
「そうだな。次は水を5g減らしてみよう。」
部長である小芭内が答えると、部員達が「了解です!」と2射目の準備に取り掛かる。
その部員達の姿を見ながら、小芭内は何やらノートに書き込む。
(これで駄目だったら、空気圧、角度の調整……、それと本体自体を………、)
ノートの記憶を見ながら、集中して考えを巡らす。そんな無防備な小芭内の、そのすぐ背後から、黒い影が忍び寄る。
「先輩♡」
「うあぁっ!!」
突然耳に熱い吐息が拭きかかり、小芭内が身体が宙に飛び上がった。
何事かと耳を抑え振り向けば、またもやあの女・氷渡陽華がにっこりと微笑んで立っていた。
「またお前かっ…、この変態痴女がっ!」
小芭内は急いで白衣のポケットから携帯のスプレーボトルを取り出すと、陽華の身体に中身の液体をシュッシュッと噴射する。
「きゃっ、なんですかそれっ!?」
「アルコールだ。痴女菌がこれ以上近づけないよう消毒をしてる。」
「人をバイキン扱いしないでくださいっ!」
「フンッ!お前、菌を舐めるなよ。菌の可能性は無限大なんだ。おまえなどなんの役にも立たない、菌以下の存在だ。」
冷たく言い放つと陽華から視線を背ける。小芭内のその態度に、陽華はプウっと頬を膨らませた。
「なんか扱いが、さらに酷くなってないですか?」