第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
『や…やめろ……、』
心臓が信じられないくらいに、ドクドクと波打ってる。
身体が熱い、陽華に触れられたところ全てが熱を帯びて、頭が真っ白になっていく。
なんなんだ、これは……、
『この…馬鹿女、…いい加減、離れ…、』
キンコーンカンコーン♪
「お、予鈴だな。」
「なんだよ!伊黒のヤツ、結局来なかったじゃねェーか!」
「俺たちも来たことがバレて、逃げられたんじゃないか?」
「とりあえず、教室に戻ろう。」
予鈴を合図に、実弥達が口々に呟いて科学室から出ていく。
全員が教室が出る。それを耳で感じ取ると……、
バンッ!!
小芭内は慌てて陽華を押しのけ、這い出るように机の下から飛び出した。
そして這うように教室の端までくると壁に背にして、怯えるように陽華から距離を取る。
「な、なんなんだ、お前っ!!」
「先輩こそ、女嫌いだなんて言ってたのにちゃんと反応するんですね。」
陽華は机の下から出ると、軽く怯える小芭内の前に、膝を立ててしゃがみこんだ。
「だからこれは…生理現象で、お前に反応したわけじゃな……、んっ!」
まだ言い終わらないうちに、サッと近づいてきた陽華の顔が、唇が、マスク越しに重なった。
「んーーーーっ!!!」
慌てて固まる小芭内に、陽華は顔を離すと、恥ずかしげに微笑んだ。
「フフ、先輩の唇、奪っちゃいました♡」
「ば、馬鹿かっ!こんなのは、ノーカンだっ!マ、マスク越しだろうがっ!」
こんなことで、ファーストキスを奪われて堪るか!とばかりに騒ぎ立てる。陽華はその姿に笑顔を向けながら立ち上がると、小芭内を見下ろした。
「先輩が女子のこと、本当に嫌いなら諦めるしかないと思ってました。でも私なんかでも反応してくれるってわかったから……、まだ希望はありますよね?」
陽華はにっこりと微笑みながら、小芭内に人差し指を向けた。