第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
動揺を隠せず、視線をウロウロと彷徨わせ、鏑丸に助けを求めるように視線を送る。
しかし鏑丸はニパッと微笑んだ(小芭内にはそう見えた)だけで、スルリと小芭内から離れて机の下に引っ込んでしまった。
(くそっ、薄情者めっ!)
肝心なところでいなくなった親友に悪態を付きながら、もぞりと動く陽華に慌てて視線を戻す。
すると、丁度良く身体を起こそうとする陽華の頭が見え、更にその下、はだけたワイシャツの隙間、そこから形の良いむっちりとした谷間がちらりと目の中に飛び込んできた。
(ま、不味い…これは……、)
さらに陽華が動くたびに、その身体から仄かに甘い香りが漂い、小芭内の鼻腔を刺激してくる。
(何なんだ…この匂い……、)
今まであの家族と暮らしてきて、女の匂い、化粧品やどぎつい香水など不快なだけだった。それなのに、今陽華から漂う香りは何処までも心地よく、不快に思うどころか、小芭内の気分を高揚させていく。
(あっ…ヤバい…、)
自分の身体に感じる異変。慌てて小芭内が距離を取ろうと藻掻く、しかしその行為はさらに陽華と絡み合うような形に。
『っ!…あ、脚を動かすなっ!そこはっ……、』
絡み合う脚と身体。陽華がさらに身体を動かせば、
グニッ!
っと、太腿に…何か、違和感のある硬いものが当たってきて……、
「っ!」
「くっ…、」
その正体に気づいた陽華は、一瞬固まるとみるみる顔を赤く高揚させた。
「……先輩、ももに…あの…、硬い物が当たってるんですけど……、もしかして…興奮してくれてます?」
その言葉に今度は小芭内の顔が信じられないくらいに赤くなった。
『ち、違うっ!!こ、これはただの生理現象で…、』
『先輩……、私、嬉しいです。』
恥じらうように微笑む陽華が、小芭内の身体に抱きつく。
「っ!!」
その瞬間、首に顔を埋めた陽華の唇が小芭内の首筋に当たり、吐息が掛かった。