第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
そんな陽華の考えに衝撃を受けていると、教室の外から声が聞こえてきた。
「アイツさァ、最近可笑しいんだよ。女でも出来たんじゃねェーかって思ってよォ。」
「それはめでたいなっ!」
「でも女が出来たら、流石に俺らに報告するだろ?隠しても何も意味ないしな。」
(し、不死川っ!一人で来いって言ったのにっ!)
実弥の他に聞き慣れた奴らの声も聞こえてきて、小芭内の胸に焦りが生じる。
不味い、今鉢合わせしたら、余計な説明の手間も掛かる上にこの女も何を言い出すかわからない。
「おい、お前を見られたら厄介だっ!隠れるぞ、こっちへ来い!」
「ちょっ…先輩っ!」
小芭内は陽華の手首を掴むと、長い教室の後方まで下がり、並ぶ実験台の一つに身を潜めた。
ガラッ!
「あれ?いねェーな。なんだよアイツ、人のこと呼び出しておいてよォ。」
「何か用事が出来たのではないか?少し待てば、来るかもしれん、待とう!」
この教室内に高らかに大きく響く声は、恐らく一学年下の煉󠄁獄杏寿郎だ。小芭内とは近所で小さい頃からの付き合いがあり、実弥や他のクラスメイト達とも仲がいい。
「不死川、珍しくお前が真剣な顔して、伊黒の事で悩んでるから、俺達も心配して付いてきちまったけど、良かったのか?」
そう言って、問いかける声はクラスメイトの鱗滝錆兎。
「あ?一人で来いって言われたけどよォ、いつもつるんでるお前らなら問題ねェーだろ?……ま、コイツはキレられるかもしんねーけど。」
そう言って実弥が視線を向けたであろう人物、その人物はその言葉に、あからさまに心外そうな声を発した。
「なぜだ、俺も伊黒が心配だ。」
(くそっ!なぜ、冨岡まで連れてきたっ!!)
生理的にあまり受け付けられないクラスメイトの冨岡義勇の声が聞こえて、小芭内が苛つき、心の中で毒づく。
そんな親友達の動向を机の中で身を縮こませながら気にする小芭内に、同じ机の中にいる陽華が小さく囁く。
『……先輩、なんで隠れたんですか?』