第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
何も語ろうとしない親友を横目に見ると、実弥はカマ掛けるように問いかけた。
「クラスの奴が見てたらしいんだけどよォ。昨日の夕方、街でお前が女と歩いてたって……、」
「なっ!?……だ、誰だっ!そんなこと言ってたのは……、」
「……村田。」
(村田かっ、まさか情報源はアイツか!?後でぶん殴る!!)
「み、見間違いじゃないのか?」
平静を装って、そう答える。
「蛇を首に巻いたキメ学生だぞォ?つーか、ンな人間だって、そうそういねェだろがァ。」
確信を付く言葉に小芭内が思わず黙り込むと、実弥は畳み掛けるように言葉を続けた。
「女嫌いのお前に女が出来たとは思えねェけど、最近のお前の態度は明らかに普通じゃねェし。何があったのか、そろそろ俺に話してもいいんじゃねェかァ?」
実弥の言葉に小芭内は考えるように俯いていたが、少し経つと覚悟を決めたようにこういった。
「わかった、お前だけには話す。だがここじゃ駄目だ。昼休みに科学室に一人で来い、そこで話す。」
・
昼休み。実弥との約束のため、小芭内は化学室まで向かった。
化学室に着き、扉を開けると実弥はまだいなかった。
「少し早かったか?」
そんなことを呟きながら、机に添えられた丸椅子に腰を降ろす。動揺する気持ちを落ち着けるように科学室の実験机に頬杖を突く。
「はぁ…。説明すると言ったが、何をどう言えば……、」
まさか後輩の女に揶揄われ、付き纏われているなどと、どう伝えればいいのかわからない。
思いあぐねいて、机に突っ伏すとその背中に、…最近良く聞く…あの声が響いてきて……、
「せーんぱいっ♡」
「んあっ!な、なんでお前がここにいる!?」