第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
陽華の諦めない宣言から、一週間が経った。宣言通りと言うべきか、この一週間、陽華は小芭内の前に良く現れた。
学校内の廊下。部室。帰り道。良く行く本屋やコンビニ。
至るところに現れては、小芭内に絡んでくる。
(なんなんだ、あの女。新手のストーカーか?それとも俺を落とせなかったら、何か重たい罰ゲームでもあるのか?)
今はまだ、実弥やクラスメイトの連中の前で現れてないことがせめてもの救いだが。
というか、あの出没率。どこかに情報源でもあるとしか思えない。
「はあぁぁぁ……、」
一時限目が終わり、教室の机に突っ伏したまま、これまでの陽華の動向を思い返し、深いため息をつく。
「おい、伊黒ォ。次、移動だぞ?早くしねェーと、授業始まんぞ?」
「す、すまないっ!」
教室の入り口に立つ実弥に促され、小芭内は慌てて椅子から立ち上がると、教科書を抱え、教室の出口へと向かう。しかしふと立ち止まると、ドアから顔だけ出して、警戒するように左右を見渡した。
「何を警戒してやがんだァ?」
「……いや、なんでもない。」
幸い実弥にもまだ気づかれてない。
小芭内は実弥の質問を軽くはぐらかすと廊下を出て一緒に歩き出す。そんな小芭内の怪しい態度に実弥の顔が怪訝そうに曇る。
「最近お前、なんかおかしくねェーか?俺に何か隠してることあんだろォ?」
実弥の再度の質問にドキリと心臓が波打つ。小芭内は出来るだけ平静を装うように、顔を背けると小さくつぶやいた。
「………別に…何もない。」
明らかにいつもの小芭内とは違う反応。