第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
教室のある校舎を抜け、渡り廊下を通り、小芭内は隣の校舎へと入った。校舎の入口から真っすぐ伸びた廊下、その突き当りに科学部の部室である科学室がある。
小芭内は科学室に続く廊下を歩きながら、最近の研究結果について思いを巡らせていた。
(……ここ最近、ロケットの飛距離が思ったより伸びない。もう少し重量を減らすか、思い切って超軽量に…、だがそれだと水量が……、)
一人ブツブツと呟きながら、深く考えるように俯く。するとその背中に……、
「せーんぱいっ!」
「うあっ!!」
突然声を掛けられ、考え事に夢中だった小芭内は思わず飛び上がった。慌てて振り向くと、そこには昨日の女…氷渡陽華が立っていた。
「なんだ、お前か。……何の用だ。」
明らかに不快そうな視線を向けると、陽華は一瞬怯んだ顔を見せたが、それでも勇気を出してグイッと小芭内に詰め寄った。
「先輩、ちょっといいですか?私、一晩考えたんです。確かに先輩の言う通り、ちょっといきなり過ぎたと思うんです!だからまずは私を知って貰うことから、始めることにしました!」
「そうか、迷惑だ。」
「いえ、私まだ諦めませんっ!!だって私は本当に先輩のこと好き………んぐっ!」
いきなり小芭内に口元抑えられ、陽華が「んんー」と口籠る。
「声がでかいっ!お前には恥じらいと言うものがないのか?」
これだから、女という生き物は……、
小芭内はオッドアイの瞳で陽華をにらみつけると、
「無理だ、諦めろ。」
と、冷たく言い放つ。しかし陽華は手の拘束から逃れるように小芭内から離れると、顔をキッと見つめた。
「いえ、諦めませんっ!!」
しかしその返事にも小芭内は興味ないといった感じで真顔になると、陽華に背を向けて無言で歩き出してしまった。
その背中に陽華は再度叫んだ。
「先輩っ、私は絶対に諦めませんからっ!!」
その言葉を背中で聞きながら、小芭内は、
「アイツ、完全に頭がイカれてるな。」
と呆れたように呟いた。