第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
ー 放課後
荷物をカバンの詰め、部活動のため部室に向かおうとしていた小芭内をおなじクラスの男子が呼び止めた。
「伊黒ォ、昨日部活休みだったんだろ?バイト代入ったから、久々に奢ってやろうと思ってたのによォ、何処行ってやがったァ?」
「不死川…、」
声をかけてきたのは不死川実弥。キメツ学園初等部の頃から付き合いのある幼馴染で、小芭内の親友でもある。
「不死川、その気持ちは有り難いが、いつも言ってるだろ。そのバイト代はお前が睡眠を削ってまで家族の為に働いた対価だ。俺なんかの為じゃなく、家族の為に使ってやれ。」
実弥は死んだろくでなしの父親の代わりに家族を養うため、日夜バイトに明け暮れる勤労学生だ。
「それに昨日は、……部活は休みだったがペットボトルロケットの大会が近いからな。部室に寄って、研究成果を纏めていた。」
小芭内は少し迷ってから、嘘をついた。実弥は見た目こそ凶暴でヤカラそのものだが、中身は情に厚く、優しい男だ。余計なことを言って、心配など掛けたくはなかった。
「そうかァ。」
「それより、もうこんな時間だぞ?バイトに行かなくていいのか?」
小芭内が教室の時計に目をやると、実弥も同じ方向を見て、慌てたように自分の学生鞄を掴んだ。
「やべっ!……じゃあなァ、伊黒っ!!」
「あぁ、また明日な。」
慌てて教室を出ていく実弥の後ろ姿を見て、小芭内はふぅ…と一息つくと、自分も部室へと向かった。