第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
次の日の朝、学園へと続く長い並木道を、陽華は一人憂鬱な気分で歩いていた。
昨日の放課後、ずっと想いを寄せていた先輩、伊黒小芭内に勇気を出して告った。そしてこっぴどくフラレた。
「はあぁぁ……。」
思わずため息が漏れる。告る前から入念にリサーチをしていて、女嫌いなのは有名だから知っていたし、きっと一回目は断られることは想定していた。
けどまさか、あんなに激しい拒否反応を示されるとは思ってなかった。
昨日の小芭内とのやり取りを思い出すと、今でも胸がズキリと痛む。
「……昔はあんなにひどくなかったのにな。」
ため息混じりにポツリと小さく呟いていると、突然後ろから誰かに肩を叩かれた。
驚いて振り向くと、そこにいたのは親友の鱗滝真菰だった。
「おはよ、陽華。」
そう言って穏やかに優しく微笑む真菰の顔を見ると、安心感で我慢してた涙腺が緩む。
「うぅ……真菰ぉ〜!!」
いきなり抱きつくと、真菰は驚きながらも優しく頭を撫でてくれた。
「よしよし。」
親友の真菰には昨日の夜に、すでに報告済みだった為、心情はすぐに察してくれたようだった。そのまましばらくの間、真菰の胸に抱きついて慰めて貰う。
すると突然真菰が、
「あ、伊黒先輩。」
と呟いた。
「うそっ!?」
真菰の言葉に、陽華がピクリと反応して、慌てて辺りを見回すと、真菰は「嘘だよ♪」と微笑んだ。
「もう辞めてよっ!今その名前は、心臓に悪いんだからねっ!」
「ごめんごめん。」
えへへと、悪気なさげに屈託なく笑う真菰に「もう!」と陽華は頬を膨らませる。
「でもしょうがないよ。伊黒先輩の女嫌いは根が深いって、お兄ちゃんも言ってたし。」
真菰には一個上の学年、小芭内と同じクラスに錆兎という兄がいる。