第3章 先輩【※冨岡義勇】
一方、そんな陽華と違い、義勇には別の声が聞こえていた。
「やっぱり、陽華ちゃん、可愛いなぁ。あんな子にタオル渡して貰えるなら、俺も剣道部に入ろうかな?」
「やめとけ、冨岡のやつにボコボコにされるだけだぞ?」
「でもよ、毎日あの顔とあの身体を拝めるなら、少しくらい厳しくても…、」
そう言って笑い合う男子生徒を、義勇がギロリと睨みつける。その視線に恐れをなして、冷やかしで陽華を見に来ていた男子生徒達はそそくさと道場から出ていった。
義勇は先程の男子生徒達が居なくなった事を確認すると、防具を脱ぎ、タオルを手に道場から出て行った。恐らく顔でも洗いに行ったのだろう。と陽華は推測した。
義勇がいなくなると、剣道部の後輩達は、義勇の話題を口にした。
「今年のインターハイは、優勝ねらえるんじゃないか?」
「去年は本当に惜しかったもんな?」
去年のインターハイに出場した義勇は、決勝で負けて、惜しくも2位と言う結果だった。
「でも、流石は冨岡先輩だよな。負けても、涼しい顔でさ。全然悔しそうじゃないんだよ。」
「そうそう、流石は鉄仮面。何事にも動じないよな。」
あまり表情を変えることのない義勇は、学校中からも鉄仮面だの能面だの、色々と揶揄されている。しかし、イケメンなこともあり、誰もその事については、それ以上は言及はしなかった。
でも、陽華だけは知っていた。あのインターハイの日の夜、義勇がこっそりとここで練習していたことを。そして悔しさに顔を歪ませていたことも。
あの日からだった。陽華の中の鉄仮面像は消え去り、義勇が他にどんな顔を見せてくれるのか、気になりだしたのは。