第3章 先輩【※冨岡義勇】
「メーーーンッ!!」
相手の面に、勢いよく竹刀が振り下ろされ、パーンと小気味良い音が、道場内に響き渡った。
「一本!」
審判である顧問の先生の号令で、先程まで、稽古を行ってた二人は、元の位置に戻り、礼をする
その瞬間、道場内に歓声が起こる。
「見たか?あの冨岡先輩の足さばきっ!」
「本当に綺麗だよな?流麗って言葉は、こういう事を言うんだろうな?」
見物人達が沸き立つ中、稽古を行っていた当の本人、剣道部のエース・冨岡義勇は、涼しい顔で自分の陣地まで戻り、防具を脱いだ。
その美しい顔から、大量に汗が流れていて、マネージャーの陽華は慌てて、義勇にタオルを渡した。
「先輩、どうぞ?」
「ありがとう。」
義勇がタオルを受け取り、礼を言うと、道場の外から見ていた女子達から、野次が飛んでくるのが聞こえた。
それを背中に聞いて、陽華は苦笑いを浮かべた。
(だって、これがマネージャーの仕事なんだもん。仕方ないじゃない。)
そう思いながらも、女子達が騒ぐほどにモテモテの剣道部のエースの近くにいることに、若干の優越感に浸る。
防具を外した義勇に目をやると、義勇は外野の声などまったく、聞こえていないかのような素振りで、顔の汗を吹いていた。
その顔をじーっと見る。
(やっぱり、先輩って綺麗な顔してるな。)
それに見とれていると、義勇と目が合った。
「なんだ?」
「な、何でもありませんっ!!」
陽華が慌てて首を振った。