第14章 進物・番外編 義勇誕生日記念【※冨岡義勇】
「そういうのに良く当たる…とは言っていたが、まさか本当に当たったとは思ってなかったぞ。」
ヌシを捕獲した経緯を聞いて、鱗滝は呆れたように呟いた。そうだろう、陽華とて、こんな結末は予想していない。
それから義勇と陽華は鱗滝から服を借り、囲炉裏の火で濡れた服を乾かし、暫くの間、暖を取らせて貰った。
その間に陽華は、ヌシに処理を施すと、半分だけを背負いの籠に詰めた。後の半分をお礼にと、そんなにはいらないと遠慮する(嫌がる)鱗滝に押し付けて、その後、義勇と二人狭霧山を後にした。
鳴柱邸までの道中、
「義勇さん、ヌシは重たくないですか?」
ヌシの入った籠を背負う義勇を、陽華が気遣う。
「大丈夫だ。」
そう笑顔で答えると、陽華がもじもじと恥じらうように、義勇を上目遣いで見つめた。
「義勇さん、…お手々、繋いでもいいですか?」
「あぁ。」
陽華が差し出された手を握ると、義勇もその手を握り返し、それを羽織のポケットの中にしまいこんだ。
「ふふ、温かいです。」
「そうだな。」
そう言って笑い合うと、二人は鳴柱邸までの数時間の道程を仲良く手を繋ぎながら、帰っていった。
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「妙さーん、ただいまーー!」
陽華達が屋敷に着いたのは、夕刻を少し過ぎた頃だった。大声で帰宅の挨拶をすると、奥で作業をしていた、鳴柱邸の使用人の妙がパタパタと音を立てて、小走りに玄関まで来た。
「陽華さん、おかえりなさい。冨岡さんもいらっしゃいませ。」
帰ってきた陽華の後ろに、義勇の姿を確認した、妙は微笑んだ。
「妙さん、こんばんは。」
義勇は妙に答えると、背中に背負っていた籠を降ろした。妙がその籠を覗き込む。
「あ、それがお手紙に書いてあった、噂の狭霧山のヌシですね?」
籠から臭う微かな魚臭に、妙が問いかける。小屋を出る際に、先に鴉を飛ばして、事情を説明してあった。
「妙さん、今日の夕餉は私が作るからっ!!」
「はいはい、わかってます、他の食材も全て用意しておきましたよ。」
妙は、手紙に書いてあった通りの食材を事前に街まで、買い出しに行ってくれていた。