第14章 進物・番外編 義勇誕生日記念【※冨岡義勇】
義勇の経緯を聞いて、陽華の心に焦りが生じる。
「義勇さん、もしかしてもう…私の屋敷に行きますか?」
「ん?……お前の用事が終わっているなら、先生に挨拶をして、一緒に立とうと思っているが…、」
「やっぱり!?……あの、私まだ、駄目なんですっ!だってまだ、ヌシが……あっ、」
「…ヌシ?」
しまった!義勇に内密に事を進めていたのに、思わず口が滑ってしまった。慌てて口元を抑えるが、もうすでに義勇は訝しむような瞳を陽華に向けていた。
これはもう事情を話す他ない。
「…ヌシとはこの川に住む、…伝説の鮭のことです。」
※陽華の中では、もう伝説となった。
陽華がヌシの事、そこまでの経緯を軽く説明すると、義勇の口の中でジュワッと涎が溢れた。
「伝説の…鮭。それは確かに心が惹かれる。だが陽華、俺は別に特別な鮭が食べたいわけじゃない。ただ俺は…、」
陽華が作った物が食べたいのであって、そういった付加価値は特に必要とはしていないのだ。自分に美味しい鮭大根を食べさせたいと思ってくれる陽華の気持ちは、とても嬉しいのだが。
しかし、そう説明しようとする義勇の目に、悲しげに瞳を伏せる陽華の顔が映る。
「…でも私、どうしても義勇さんが納得出来そうな鮭大根を作る自信がないんです。せっかく義勇さんが機会をくれた、大切な試験なのに…、」
「試験?…なんの話しだ?」
「義勇さんの、お嫁さんになるための試験です!このままじゃ、相応しいお嫁さんにはなれませんっ!!」
「よ、嫁っ!?」
義勇の顔がこれまでにないくらい赤く染まる。
ただ、思い出の品が食べたいと言っただけなのに、まさか陽華の中で、そこまで話しが大きくなってるとは思わなかった。
「お、俺は、そんな大事な事を、鮭大根なんかで決めたりはしない。」
いや勿論、鮭大根が美味しく作れるなら、それに越したことはない。だが、その相手が陽華であるならば、そんなのはどうでもいい。
「鮭大根は関係ない。それに俺は…、」