第14章 進物・番外編 義勇誕生日記念【※冨岡義勇】
「あ〜!!先生の大事な竿が……、」
川に手を伸ばして、竿を追いかけようと藻掻くと、義勇にぐいっと身体を引き寄せられる。
「もう無理だ、諦めろ。そんなに2月の川で、寒中水泳がしたいか?」
陽華は義勇に向き直ると、悲しそうに義勇の顔を見た。
「だって…先生の竿が……、」
「弁償すればいい。」
「大切な竿かもしれません!!」
「だったら、誠意を込めて謝罪しろ。俺も一緒に謝ってやる。」
そう言われたら、諦めるしかない。
「うぅ…わかりました。……って、義勇さん、何でここにいるんですか?」
「そんなことは俺の方が聞きたいが…まぁいい。俺は任務で近くまで来たから、挨拶に寄っただけだ。……そしたら、お前がいると先生に聞いて驚いた。」
そこまで説明すると、義勇は訝しげに目を細め、陽華の顔を伺う。
「で、お前はなぜ、ここにいる?」
「私はっ、……修行です!」
目が泳ぐが、間違ったことは言ってない。鮭大根の作り方を教わりに来たことに間違いはないのだから。
本来ならもう少し早い段階で訪れる予定だったが、柱は忙しくて、こんなにギリギリになってしまった。
「本当か?また、先生に迷惑を掛けていたんじゃないのか?」
「掛けてませんっ!!」
そう答えながらも、さらに目が泳ぐ。だって昨日から永遠、鮭大根を食べ続けて貰っているとは、正直言いづらい。
「何かをやましい事でもあるのか?」
わかりやすく目を泳がせる陽華の顔を、義勇の紺碧の瞳が射抜くように見つめると、陽華の顔がぽっと赤く染まった。
「そんなに見つめられたら、恥ずかしいです。」
可愛く頬を染めて、上目遣いでそう見つめてくる陽華に、今度は義勇の顔も赤くなる。
「わ…わかった、それはもういい。明日はお館様から休みを頂いたから、ちょうどお前の屋敷に行こうとしていた。」
陽華の誕生日の一件から、なぜか柱達の誕生日は、その本人のお休みとなるのが恒例となっていた。
普段、休み返上で働いている柱達へ、お館様からの感謝の気持ちらしい。
※ちなみに狭霧山はギリギリ陽華の担当地域の為、けしてサボってるわけではない。…………と、思う。