第14章 進物・番外編 義勇誕生日記念【※冨岡義勇】
「うむ、アイツのあの自信と前向きさは、いつも何処からやってくるんだろうな。しかし……、」
鱗滝は自身の家の調理場を見て、ため息とともに呟いた。
「後片付けくらいしていけ。……それと、鮭大根はもう…食べたくないな。」
・
小屋を出た陽華は、登り慣れた霧の山をスイスイ登っていく。
滝の上にたどり着くと、軽くせり出した岩場から、早速釣り糸を投げ入れてみる。
「待っててください、義勇さん!私、必ずやヌシを捕まえて見せます!」
そう意気込んではみるが……………、
待つこと一時間。反応はない。
「やっぱ、そんなに簡単には行かないか。」
チェッと軽く舌を打つ。
陽華は一旦竿を引くと、餌をつけ直し、もう一度釣り糸を投げ入れた。
今度はさわさわと釣り糸を揺らして、誘うように動かしてみる。
すると握った釣り竿に微かに反応があった。陽華がさらに引き寄せるように竿を動かすと、竿が突然、何かに凄い勢いで引っ張られたように、大きく撓った。
「んんー、なにこれっ!!つよっ、まさかっ……、」
すると次の瞬間、水面から、何か大きな物体が勢いよく飛び上がった。
バシャっ!!
大きさは1.5メートルくらいあるだろうか?大きな銀色の幻影が陽華の視界に飛び込んでくる。
「え、うそ!?でかっ!!」
その姿はしかし、見紛うことなく鮭そのもので……、
思っても見なかった突然の登場と、ヌシのあまりの大きさに意表を突かれた陽華の身体が、グラリと揺れる。
やばいと思う前には、岩場から脚が滑り、川の方へと身を傾けていた。
(あっ、落ちるっ!)
この寒空の川にっ!?
陽華は覚悟して身構えた。しかし……、
ガシッ
突然、腰に回された何かが陽華の身体を支えた。驚いて振り返ると……、
「ぎ、義勇さん!?」
「たくっ、何してるんだ、お前は!」
そこには愛しい恋人・冨岡義勇がいて、陽華の身体を支えていた。
そんな状況に驚いていると、
スポーンっ!
「あっ!?」
竿が勢いよく手からすっぽ抜け、川の中へと消えて行った。