第14章 進物・番外編 義勇誕生日記念【※冨岡義勇】
拝啓、愛しの義勇さん
私は今、鮭……修行の為に狭霧山に来てます。
「先生、宜しくお願いします!」
いつにない、真剣な眼差しをした鬼殺隊鳴柱・氷渡陽華は、両手で包む込むように持った小鉢を、目の前にいる人物に差し出した。
「うむ。」
そう一つ頷いて、先生こと鱗滝左近次が小鉢を受け取る。
昨晩から、幾度となく行われたこのやり取り。鱗滝はお面を少し上にズラすとその器の中身、鮭大根を一口分箸で掴み、口へと運んだ。
ゆっくりと味わうように咀嚼してから飲み込み、小鉢を床に置くと、面を戻して腕を組み、何かを考えるように俯く。
その仕草に、陽華の喉がゴクリと音を立てた。
「…い…いかがでしょうか?」
「………うむ、普通だな。」
その瞬間、陽華の顔が悲劇の色に染まった。
「いやぁぁあーーー!どうしましょう、先生っ!!義勇さんの誕生日は明日なのにっ、私は美味しい鮭大根一つでさえ、作れませんっ!」
「いや…充分、普通に上手いがな。」
頭を抱えてのたうち回る陽華に、鱗滝は、率直な感想を述べる。
「普通じゃ駄目なんですっ!義勇さんが一口食べて感動するような、そんな鮭大根を、私は作りたいんですっ!!」
別に陽華が作れば、義勇は喜んで感動すると思うが……、
そう頭に過るが、悲しみに暮れる陽華に、今そんな気休めを言っても、絶対に聞かない。
「こんな定食屋の大将さえも、超えられないような代物、義勇さんには出せませんっ!」
「いや、定食屋の大将は本職だぞ?そう易易とは超えられんだろう。」
「先生、これは義勇さんが私に課した試験なんです!!」
「相変わらず、人の話を聞いとらんな。ん?…試験とはなんだ?」
「決まってるじゃないですかっ!冨岡家の嫁になるための試験ですっ!きっと、美味しい鮭大根を作る事こそが冨岡家のっ、義勇さんのお嫁さんになる人に課せられた義務っ!そしてこれが、試験なんですっ!!」
「……話がとんでもなく飛躍しとるな。」
鱗滝がお面の下で、冷めた目を陽華に向けた。