第13章 進物 完結編【※冨岡義勇】
「義勇さんの誕生日も、盛大に祝いますからね?何か欲しいものはありますか?」
「いや、俺の誕生日はあんなに騒がしくなくていい。それと…欲しいものも、もうない。俺も本当に欲しいものは、今日手に入った。」
義勇の手に握り締められた陽華の手。義勇はそれを口元まで持ってくると、その甲に優しく口づける。
その甲に触れる暖かな温もりから、義勇の気持ちが伝わってきて、陽華の胸がきゅんと暖かくなる。
「フフ、義勇さん、大好きです。」
「あぁ、俺もだ。」
そう言って、陽華と笑い合う義勇だったが、ふと大切なことを忘れていた事を思い出す。
「そうだ陽華、もし俺の我儘を一つ聞いてくれるなら、今度の俺の誕生日はお前の作った鮭大根が食べたい。」
「へ?…わ、私のでいいんですか!?」
もっと、有名な料理人や、街の定食屋の旦那さんが作った物の方が遥かに美味しいと思うのだが……、
「あぁ…お前のがいい。」
陽華の手を握り締めた手に力が籠もる。
あの日、自分に縋りついてくれたこの小さな手。その手が、自分の為に作ってくれた鮭大根。
「あの鮭大根、本当に美味しかった。だからあれがいい。」
今日ずっと言いたかったことを言えて、義勇が満足そうに微笑む。
「わかりました!私、義勇さんのために、美味しい鮭大根を作りますね?」
「そうか、宜しく頼む。」
そう言って、本当に嬉しそうに微笑む義勇に、陽華が可愛く微笑み返す。……が、心の中では焦っていた。
(…や…やばいです。)
ここ数年、仕事や修行が忙しくて料理なんかまともにして来てない。
(一度、狭霧山に帰って、先生にもう一回作り方を教わらなくてばっ!!)
そう誓うと、陽華は義勇の胸に静かに顔を埋めた。
「それと陽華、…鮭大根を食べ終わったら、その後はお前も貰う。」
「ふぇっ!?」
陽華の顔が真っ赤に染まると、義勇は楽しそうにムフフと笑った。
ー 進物 完