第13章 進物 完結編【※冨岡義勇】
「そうですか。」と呟いて、壁の掛け時計を見ると、九時を少し過ぎた辺りだった。通いの妙はいつも八時には自宅に帰ってしまう。
「あっ、簪っ…、」
ふと思い出し、妙への贈り物の簪を探して、キョロキョロと辺りを見回す。すると部屋の隅に置かれた文机の上に、見覚えのある紙袋が置かれていた。
「渡しそびれてしまいました。」
「明日もいつもの時間に来ると言っていた。その時に渡せばいい。」
「そうですね。……妙さん、他に何か言ってましたか?」
「他は特に……、あっ…、」
何かを思い出したような表情で固まる義勇に、陽華が首を傾げる。
「義勇さん、どうしました?」
「……いやっ、なんでもない!」
義勇が慌てて答える。
(そういえば帰り際、何やら物騒な事を言っていた気がする。)
夕方、陽華を抱えて帰ってきた義勇の、陽華を見る表情が、今朝と余りにも変わっていたことにピンときた妙は、帰り際……、
「じゃ、もう帰宅時間なので私は帰ります。陽華さんのことは、冨岡さんにお任せしますね。」
「承知した。」
そう返事をして、眠る陽華に視線を移す。すると陽華は驚くほど無邪気な顔で眠っていて、義勇は思わず自然に顔を緩めた。
そんな義勇を見て、妙はムフフと微笑んだ。
「冨岡さん、お任せしますと言いましたが、変な気は起こさないよう気をつけてくださいね。」
「……変な気?」
一瞬考える。しかしすぐにその言葉の真意に気づくと顔を軽く高揚させた。
「た、妙さんっ!?」
珍しく狼狽えた顔を見せる義勇に、妙は微笑ましい笑顔を浮かべると、「では、お先に失礼します。」と部屋から出ていく。しかしすぐに開いた襖からひょっこりと顔を出すと…、
「でも…据え膳食わぬはなんとやら……、とも言いますけどね。」
「なっ!?」
何も言えず黙りこみ、さらに顔を高揚させる義勇に、妙はフフフと笑うと、帰って行った。