第12章 進物 後編【冨岡義勇】
義勇も陽華と視線を合わせると、二人は目配せし合い、せーので、ゆっくりと綱を揺らした。
ガランガランと、鐘の音が静かな室内に響き渡る……そして……、
バサっ!
突然、掴んだ綱が取れたかと思うと、中から長細い白地の布がダラリと垂れ下がって来た。
「……ん、なにこれ?」
陽華が首を傾げて、その垂れ下がって来た布を見る。何か文字が書いてある。そこには……、
ー 陽華、お誕生日おめでとう♡
我が子を心より愛する父・耀哉より
それを見た瞬間、陽華の目が点になる。
「………何ですか、これ?」
陽華が、後ろの二人に視線を合わせずに問いかける。
「…何ってそりゃ、お館様からの伝言だよ。」
「はい、伝言です。」
二人が必死に笑い堪えながら答えると、陽華の頭に、全ての事象がパチパチと音を立てて、繋がっていく。
「もしかして、…まさか…これって……、全てお館様が仕組んだんですか?」
「いや…、これっていうか…、今日起こったこと……全部だよ。」
天元が必死に笑いを堪えながら答える。
「……じゃあ…、この鐘の伝承は?」
「…そうですね。それも…お館様の…台本?」
しのぶが流石に申し訳なさげに答えると、陽華が泣きそうな顔で二人に振り向く。
「私、コレのために頑張ったのに、なによ、それーーーー!!」
静かな部屋に、陽華の悲痛な叫びが響き渡ると、とうとう天元が耐えきれずに吹き出し、しのぶによって窘められる。
その隣では、意味の分からない義勇だけが一人、首を傾げていた。
その後、陽華はそれなりに喚き散らし、それでも楽しかったからと納得し、虚無僧の正体を知って、義勇と二人で謝罪し、笑顔で三人にお礼と別れを告げ、忍者屋敷を後にした。