第12章 進物 後編【冨岡義勇】
虚無僧の鉄球に倒れた義勇だったが、しのぶの言う通り、背中を打ち付けた以外はかなり軽症だったため、すぐに起きた。
そうして漸く陽華は、念願の【愛の鐘】の前に義勇と二人、立つことが出来た。
その場所は先程の庭園よりも、より色とりどりの綺麗な花で囲われた華やかな場所だった。そしてその中心にあるのが、アーチ状の台座に吊るされた白い鐘。
陽華はその鐘を感慨深く見つめると、心臓を小さく高鳴らせる。
(……とうとう、ここまで来たんだ。)
陽華は意を決して義勇に向き合うと、息を深く吸い込み、自分を奮い立たせるように左手を掴むと、義勇に向かって大きな声で叫んだ。
「義勇さんっ!私と一緒に、あの鐘を鳴らしてくださいっ!」
(い…言えた……、)
やっと言えることが出来た自分の気持ち。どんなに言おうとしても、言う事の出来なかった本当の気持ちが。
陽華の顔は今や、沸騰したかのように熱くなり、胸はうるさいほどの鼓動を波打っていた。
(お願い、義勇さん!私の想いを受け止めてくださいっ!!)
後は義勇の答えを待つだけ………、
「陽華……、俺は……、」
義勇が言葉を発する。瞬間、跳ね上がる心臓。
心して息を呑む陽華に、義勇は………、
不思議そうに首を傾げた。
「疑問なんだが、あの鐘を鳴らしたら、この迷宮を攻略したことになるのか?」
・・・・・・へ?
「…ま…まさか、義勇さん、」
陽華の頭に嫌な予感が過るが、それでも恐る恐る訪ねてみる。
「確認しますが……もしかして、チラシも表の説明文も読んで…ないですか?」
「…ん?…鐘については読んでないな…、」
(やっぱりーーーー!)
義勇の言葉に、陽華も外野でことの成り行きを見守っていた一同も、思わずズッコケそうなる。