第12章 進物 後編【冨岡義勇】
それを眼で追っていた天元の顔が、苦々しげに歪む。
「駄目だ、俺の眼じゃ追いきれねー!!あいつ、段々と速度を増してやがるっ!」
しかし、まだ虚無僧には追いきれるようで、手鎖を掴む手に力を込めると、陽華のいる壁を押しつぶすように鉄球を動かす。だが、陽華は押し潰される前に空に飛んでいた。
(漆っ!)
高速で到達した天井を、先程をより上回る強さで蹴り上げると、床に急降下する。
(撥っ……来たっ!!)
着地した地面の数メートル先には、虚無僧の姿。陽華はそれを確認すると、全ての意識を脚に集中させた。
陽華の床に着いた華奢な足の表面には、尋常じゃない数の血管が浮き出る。さらに柔軟なバネを駆使して、勢いよく踏み込むと……、
「超神速、霹靂一閃っ!!」
グオォォンッ!!
先程よりさらに大きく、爆音のような雷鳴を轟かせ、稲光よりも高速に、そして神をも凌駕する勢いで飛び出した、陽華の身体。
「っ…、消えた!!」
風さえも揺るがぬほどの速さに、虚無僧の感知の中からも、陽華の気配が消える。
そして同時に、陽華が横薙ぎに振り抜いた刃が、最強の男の頸を捉えた。
シュパーンっ!
勢いよく吹き飛ぶ編笠が、宙に大きく舞い上がると……、
虚無僧の身体が、ゆっくりと地面へと崩れ落ちる。
「だ、旦那ぁーーー!!!」
慌てた天元が、虚無僧に急ぎ足で走り寄る。
そのまま、身体を抱き上げると……、
「旦那っ!」
「だ、大丈夫だ。なんとか寸前で避けた……、」
「はぁ…良かった……。」
天元は安堵の息を吐き出すと共に、義勇に元に走り出す陽華の背中を驚きの目で見つめた。