第12章 進物 後編【冨岡義勇】
(避けると思っていたのだが……)
その思ってもなかった展開に、虚無僧もしばしの間、放心する。
その数メートル先では、天元が頭を抱えていた。
(何してんだよ、旦那っ!!先に冨岡がやられちまったら、このあと、誰が収集つけんだよっ!)
そんな虚無僧と天元の想いをよそに、さらにその先では、陽華が絶望に打ちひしがれていた。
(私のせいだ……、)
虚無僧を本当は優しい人だと、勘違いした自分の……、
(ごめんなさい……義勇さん…。)
陽華は零れそうになる涙を堪えると、すっくと立ち上がった。
今、先に義勇の元に向かったら、きっと義勇は怒るだろう。
陽華はギュッと歯を食いしばると、虚無僧へと向き直り、その姿をキッと睨みつけた。
「分かり会えると思ってました。でももう、無理なんですね?……なら私も…本気出します!」
陽華がスッと、構えの姿勢を取る。
シイィィィィ……
静かに呼吸を整え、全神経を脚へと集中する。
(本当はこの技は使いたくなかった……、でもっ!)
雷の呼吸・壱ノ型 霹靂一閃
ドォンッ!!
激しい雷鳴音と共に、陽華の身体が稲光のように、飛び出す。
その見慣れた速さに、虚無僧は鎖を握り締めた手を返し、鉄球を大きく振りかぶる。それを陽華に向けて放った。
しかし……、
「八連っ!!」
陽華は叫ぶと、鉄球が当たる瞬間、床を蹴り、天井へと飛び上がった。それを軌道を変えた鉄球が追いかける。しかし、追いつく寸前、陽華は天井を蹴り上げると真横に飛んだ。
(……弐、……参、)
そして到達した横壁を力強く蹴り、虚無僧に向かいを刃を向ける。
(肆……、)
しかし、横からはもう一つの鉄球が近づいていた。だが、陽華はそれさえも計算に入れていたようだ。見計らったように飛び乗ると、力強く蹴り上げ……、
(……伍っ!)
反対側の壁へと移る。陽華は、さらに追いかけて来た鉄球よりも先に、力を込めて蹴り上げ、今度は後方の壁へと移る。
(陸っ!)