第12章 進物 後編【冨岡義勇】
すると、まるで陽華を準備を待っていたかのように虚無僧も動き出すと、背中から、武器のようなものを取り出した。
忍者がよく使う武器、万力鎖のような形状しているが、その両尖端に付いてるのは、分銅ではなく、巨大な鉄球。
「片方を斧にしたら、悲鳴嶼さんの日輪刀に似てますね?」
そういえば、初めて会った時も思ったが体躯も似てる。
陽華が首を傾げると、
「そ、そうか?…よくある武器だろ?俺んちの実家なんて、その辺にゴロゴロ転がってたぜ?」
と、空々しい声色で、天元が答える。
次に虚無僧は、それの鎖部分を短く持つと、頭の上で片方の鉄球をブォンブォンと音を立てて回し始めた。
そしてその動きに、対峙した面々が警戒心を強めにしたその瞬間……、
ドンッ!
開戦の合図とでも言うように、虚無僧の体から、凄まじいほどの闘気が発せられた。
それを受けて、ビリビリと揺れる庭園内。
「うぁっ、何ですかこれ!」
と、慌てる陽華の隣で、義勇が握った日輪刀の震えから、その凄まじさを感じ取り、驚愕の表情を浮かべていた。
「な、なんだ…、この凄まじいほどの闘気は!?………まさか、上弦なのか!?」
その言葉に、天元の肩がピクリと反応する。
「あ……いや違う…、あ、でもまぁ…上弦っちゃ…、上弦みたいな…もんか?(なんつっても、鬼殺隊最強の男だからな……)」
と曖昧に首を傾げた。
しかし……、と天元は思う。
(本当にこの人に、鬼役をやらせるとはな……、)
苦笑いを浮かべる天元の脳裏に、耀哉と交わした三日前の会話が思い起こされる。
「悲鳴嶼の旦那を…ですか?」
「そうだよ。キュンキュンお姫様救出作戦が失敗に終わってしまったら、次はビリビリ愛の共闘作戦だ。」
もう題名だけじゃ、何がなんだかわからない。
「命をやり取りを掛けた戦いという環境下だからこそ芽生える、相手を心から愛しい想う心情。それを狙っていく。」
「…………はぁ、そうですか。」
「柱二人を相手にするからには、こちらも鬼殺隊最強の男を用意しない失礼だからね。行冥には出番が来るまで街中で待機するよう、連絡をしておく。当日、君達はさりげなく、彼の手助けをしてあげてくれ。」
そう言って、穏やかに微笑んだ耀哉の顔は、天元の記憶にも新しい。