第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「陽華さん、気をしっかり持ってください!来ますよ!」
しのぶの声かけに、ハッと我に返る。
そうだ、どんな理由や背景があろうと、鬼は鬼。陽華は気持ちを切り替えると、スッと構えの姿勢を取り、腰の刀に手を……、
「あれ??あっ、あぁっーーーーー!!刀、ないですぅ!!!」
陽華が慌てて素っ頓狂な声を上げる
やらかしてしまった!
今日は休みで、おしゃれもしていて、義勇と一緒でウキウキで…と、気が緩んでしまったのだ。刀を屋敷に置いてきてしまった。
「どうしよう!」と、あわあわする陽華に、天元はフッフッフッと不敵な笑い声を投げかけた。
「そうだろうと思ったから、俺が手配しておいてやったぜ?」
「え?」
陽華が怪訝な表情を浮かべる。すると、何処からともなく、声が聞こえてきた。
『ムキムキ…ムキムキ…、』
その声に合わせて、陽華の日輪刀が段々とこちらに近づいてくる。
「ああーーっ!ムキムキ鼠君達っ!!」
「ムキム…、なんだそれは?」
その異様な光景に、義勇の顔が驚いた状態で固まる。
それもそのはず、こちらに向かってくる日輪刀のその下では、日輪刀を軽々と持ち運ぶ、筋肉隆々キレッキレの鼠が二匹。
「宇髄さんとこの、忍獣です!」
陽華は前に天元と合同任務中に、裏で暗躍する姿を何度か見ていたので、馴染みがあった。
「ありがとう!ムキムキ君達!」
陽華は刀を受け取り、その鼠の頭を撫で撫でしてお礼をすると、スッと立ち上がった。
着物では、刀が持ちづらいが仕方がない。
「お待たせしました!!」
陽華が義勇の横に戻って、刀を構える。
(あっ…やばい。雷は足が大切なのに、裾が邪魔で構えの姿勢が取れない…。これじゃ威力が……、)
さらに着物の不便さを感じる。それに気づいた天元が声をかける。
「お前、そんな格好じゃあんまり動けないだろ?無理すんなよ?」
「だ、大丈夫ですっ!」
刀を忘れただけでも、柱として情けないのに、もうこれ以上は足を引っ張れない。
もう着物が破れても仕方がない。
陽華は覚悟を決めると、鬼へと視線を向けた。