第12章 進物 後編【冨岡義勇】
庭園に戻ると、義勇は目の前に立っていた天元に問いかける。
「宇髄、何があった!?」
「とうとう、現れたみたいだぜ?この迷宮に棲む、鬼がよ。」
天元はぴゅーと口笛を吹くと、顎でくいっと前方を指した。
天元が指した先、そこは先程の地鳴りのせいか、砂煙が巻き起こっていて、その奥…、そこには微かに人の姿があった。
「あれが……、」
その影から放たれる異質な空気に、陽華を含め、その場にいた面々が固唾を呑む。
やがて、その全貌が明らかになった時、陽華の瞳が大きく見開かれた。
「そん…な、あれは……、」
信じられないといった表情で口元に手を当てると、ゆっくりと首を降る。
だがしかし、見間違えるわけがない。陽華は今日一日、ずっとその姿を目にしていたのだから………、
「…まさか、…虚無…僧…さん!?」
そう、鬼として、今、陽華の目の前に立っているのは、今日ずっと街中で見かけていたあの虚無僧だった。
「なんだ、知り合いか?」
天元の訝しげに眉をひそめながらの問いかけに、陽華はブンブンと首を振った。
「ううん、違う!そんなこと…、あの虚無僧さんなわけがないんです!……だって、あの虚無僧さんは今日、ずっと外に…、太陽の下にいたんですっ!」
「そうか。でも奴の格好を見てみろ?」
頭に大きくて深い天傘、身体全体を覆う黒い装束。分厚めの足袋にしっかりとした脚絆、大きな手甲は手を覆い隠し、肌の露出がほとんどない。
「奴さん、あーやって、肌を隠して、太陽の下に堂々と歩いてやがったんだ。」
「そんな……、」
今日一日、ずっと見かけていて、ほんの僅かだが、親しみを感じていた。
街中で人々を見守る姿は穏やかそのもので、到底鬼とは思えなかった。
それに、迷子になった無一郎に向けて行われた優しさ。あれはなんだったというのだろう……、