第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「誤解がある。あれは、胡蝶が上から落ちてきたのを受け止めたら、体制を崩して、二人して転がっただけだ。やましいことなどない。」
「そんなの…、信じられませんっ!だって、現にしのぶちゃんは義勇さんの事……、」
いかに義勇ほどの聖人君子であろうと、あんなに可愛い女の子=しのぶに行為を寄せられたら、まんざらではないはずだ。
それにもしも、しのぶに初めから特別な感情があったのなら、盛りあがってあんな事態に陥ってもおかしくはない。
そんなこと、考えるだけで気分が落ち込んでくる。
(……駄目、また涙が出てきちゃう。義勇さんの顔…見れない……。)
頑なにこちらを向こうともしない陽華に、義勇はため息をついた。
「そんなに俺が…信じられないのか?」
「え?」
反射的に、陽華が義勇に目線を合わせる。すると義勇は、まっすぐに陽華の瞳を見つめていた。
「俺が今まで一度でも、お前を欺いたり、裏切ったりしたことがあるか?」
「………な、ないです。」
「なら…、俺を信じろ。」
義勇がゆっくりと、陽華に向かって手を差し出す。
陽華は戸惑いながらも、差し出された手と義勇の顔を交互に見つめた。
その瞳には、一切の曇りはなく…、
そうだ、自分が想いを寄せた冨岡義勇という人は、常に嘘偽りのない姿を自分に見せてくれていた。
そんな人を疑うなんて……、
「義勇さん…、ごめんなさい。」
陽華はそう言うと、手を伸ばして差し出された義勇の手を掴んだ。
義勇の手に引かれ、陽華が壁の中から外へ出る。
「…お前は幾分、早合点して突っ走る傾向がある。柱たるもの如何なる時も、状況把握を怠るな。」
「……はい、すいません。」
義勇のガチ説教に、言葉もない陽華が項垂れる。
その時だった。
ごおおぉぉぉぉお……
突然地鳴りのようなものが辺りに響きたり、義勇と陽華は目を見合わせた。
「何ですか、この音……、」
「わからない。だが、庭園の方からだ。」
二人は頷き合うと、庭園に向かい、走り出した。