第12章 進物 後編【冨岡義勇】
義勇が苦しそうに頭を抑える。記憶が曖昧で思い出せない。壁に吸い込まれて、地下まで落ちたことは覚えているのだが……、
そんな義勇の姿を見て、天元が安堵する。
(あの薬には証拠隠滅の為、前後の記憶に障害を起こす作用も含まれてるからな。とりあえずあの人の事は覚えてなさそうだ。)
「私達も良く分からないんですけど、ここに来たら、義勇さんが寝てて、それで…、」
陽華が軽く状況を説明する。そしてそれを聞いた義勇は驚いた表情で固まった。
「それじゃ…、お前が…俺に……、」
義勇が戸惑ったように、唇を軽く手で抑えると、陽華が慌てて説明を加える。
「あっ、違うんですっ!私は駄目だって行ったんですよ?でもこの変態おじさんが、無理矢理……、」
「だれが変態おじさんだっ!」
天元が陽華の頭を軽く小突く。
「痛っ!!また、打ったぁ!!」
陽華が涙目で天元を睨みつける。その前では、義勇が少し落胆したように顔を俯かせた。
「それならば、もう少し…眠ったフリをしていれば良かったな。」
「え?義勇さん、何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。」
慌てて落胆したことを悟られぬようにと、涼しい顔をして答える。
「けど、本当にすいませんっ!義勇さんが目覚めなくて…、私、焦っちゃって……、こんな事……、」
しどろもどろに顔を赤くして言い訳すると、義勇は陽華に穏やかに微笑んだ。
「だが、俺を助けようとしてくれていたんだろ?」
「はい、そうなんです!」
義勇の優しい言葉に、ここぞとばかりにドヤって答えると、天元が冷たい視線を向けてくる。
「お前さっき、全力で俺に責任を擦り付けようとしてたくせに、なんでドヤってんだよ。」
ぼそっと呟くと、陽華は「これ以上は、何も言うな」という無言の圧力をかけて、天元を睨みつけた。
(たくっ、冨岡と俺とで、態度が全然違うじゃねーか。)
そう呆れながらも、忘れちゃいかんと天元は陽華の肩をトントンと叩いて、耳打ちする。