第12章 進物 後編【冨岡義勇】
陽華の言葉に半信半疑ながらも、天元は階段を登って、鳥かごの中を覗いてみた。
すると確かに言う通り、鳥かごの中央、草花の中に埋もれるように義勇が横たわっていた。
「あ?何でコイツ、こんなところに……、」
そう言って義勇に近づいた天元の鼻に、微かに香るかぎ慣れた甘い匂い。
(これは…、俺の里の眠薬の匂いだな。つーことは、あの人の仕業か?)
「義勇さん、大丈夫ですかー?」
義勇の肩を優しく揺らしながら、陽華が心配そうに声を掛ける。しかし、義勇に起きる気配はない。
その姿を見て、天元の脳裏に妙案が浮かぶ。
「あー、これだけ起きないとなると、こりゃもしかしたら、血鬼術にやられてるかもな。」
「え!?それって、ここにいるっていう鬼のですか?」
「地下なら、陽光は差さねーからな。鬼が動いてても、可笑しくねぇ。」
その言葉に、陽華の顔が一気に青ざめる。
「そんなっ!…義勇さん、義勇さん!!」
悲痛な面持ちで、義勇の身体を揺さぶる。しかし、義勇はピクリともしない。
「どうすれば……、そうだっ、しのぶちゃん!?」
いま近くにいる人間で、一番血鬼術に詳しいのはしのぶだ。陽華は慌てた様子で立ち上がる。
「まぁ、待て。」
横で天元が義勇の胸に耳を当て、手を取り、脈を取りはじめる。
「心臓の音も聞こえるし、脈も正常だ。こりゃ本当に眠ってるだけで、大丈夫だな。」
「本当ですか?…でも、全然起きないんです。どうしたらいいんですか?」
今にも泣きそうに不安な表情を浮かべる陽華に、天元は意味ありげに微笑んだ。
「そりゃアレだろ?魔法(血鬼術)で眠った王子様を起こすには、昔っからお姫様の愛情たっぷりの口づけって、相場が決まってんだろ?」
「お姫様の……口づけ?」
「お前のだよ。」
「え!?ええぇぇーーー!」
陽華が叫んで、首をブンブンと振った。
「そんな事、出来ませんッ!起きてるならまだしも、寝てる人に許可もなく……、」
陽華の方は口づけだろうがなんだろうが、初めてを捧げるなら、義勇しかいないと幼き頃から決めている。なんなら、それが叶わぬなら、妖精になって生涯を終えても構わないとさえ思ってるから、問題はないが……、