第12章 進物 後編【冨岡義勇】
窓のない閉塞的な空間。湿り気を帯びた空気に、それと転げ落ちてきた時間。
(ここは…、地下…か?)
全ての事象を計算し、今いる場所を予測する。
義勇はもっと細かく確認しようと、さらに身体を起こし、身体を捻って床に手をついた。
すると暗闇の中、部屋の片隅の方で微かに何かが動く気配を感じた。
「…誰だ?」
静かに問いかけるが、答えがない。感じた気配も完全に消え、気の所為だったか?と、首を傾げる。その一瞬あと。
部屋の中に流れる空気が突然、ふわっと揺らぐのを感じ、次の瞬間、義勇の眼前が黒い影で覆われた。
「…くっ!」
敵!?瞬時に構え、羽織の背中に隠した刀を掴む。
しかし、すぐに攻撃が来るものばかりだと思っていたが、その影からは敵意を感じられない。
訝しげに目を細め、ゆっくりと顔を上げると、義勇の暗闇に慣れてきた目に映ったのは、既視感のある人影だった。
「…っ?……貴方は、」
義勇が驚きで目を見開く。すると今度は、その鼻先を甘い香りが擽った。
それを嗅いだ義勇の視界が、大きく揺らいでいく。
「……っ、なん…だ…これ…、」
義勇は為す術もなく、再度床に倒れ込むと、そのまま意識を手放した。
・
「痛いですぅ……。」
あの後、あの狭い部屋では流石に逃げ切れずに天元に捕まった陽華は、宣言通りに頭に一発貰った。
その時に出来たタンコブを撫でながら、天元の後ろをトボトボと着いていく。
「陽華さん、大丈夫ですか?」
心配して覗き込んでくるしのぶに、陽華は感動して瞳を潤ませた。
「しのぶちゃん、大好き!…でも…宇髄さんは嫌いです。」
陽華が恨ましげな眼で天元の背中を睨むと、天元がくるりとこちらを向いた。
「あのな。折角この俺様が、お前の恋路が上手くいくように協力してやってんのに、そんな態度すんなら、もう手伝ってやんねーかんな!」
「むう…。」
「たった今、完璧な計画を思い付いたんだが……、帰っか。」
その瞬間、陽華の目が耀く。
「計画っ!?……今までのは、全部嘘です。私、宇随さんのこと大好きです!!」
「本当に調子のいい女だなっ!!」
天元が呆れたように、鼻を鳴らす。