第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「それじゃ今度は、義勇さん探しが最優先ですね!張り切って行きましょう!」
「お前が仕切んなっ!つーか、今すぐそのボタンから離れろ。」
怒りの形相でそう言ってくる天元を無視して、陽華は再度ボタンの前に立った。
「おい、お前っ…、」
止めようと声を掛ける天元を尻目に、陽華はピッピッピっと、立て続けに何個かのボタンを押す。
すると何処からともなく、『ピンボーン』と軽快な音楽が聞こえ、左側の扉から、『ガチャッ』と解錠音を聞こえた。
呆気に取られる天元に、陽華が向き直る。
「このボタン、この屋敷一階の見取り図ですよね?この下の矢印、私と宇髄さんが入ってきた場所で、こことここ通ってきて、今はここにいる。そういうことですよね?」
陽華が軽く説明してみせると、天元の顔が引き攣る。
「お前、最初から…答え知って……、」
「はい!頭に食らった2回の手刀と、ちんちくりんて、言ったお返しです♪」
すごく楽しそうににっこりと陽華が微笑む。
その瞬間、天元の中の何かがブチッと音を立てて切れた。
「…この糞ガキっ!上等だぁ、表に出ろっ!!」
掴みかかろうとする天元を、しのぶが慌てて止める。
「はいはーい、隊員同士の小競り合いは隊律違反ですよー。」
「離せ、胡蝶!一回ぶん殴るっ!!」
しのぶを振り払い、天元の手が陽華の腕を掴もうと伸びる。が、陽華はそれをヒラリと交わして、反対側に逃げた。
「きゃー、宇髄さんが怖いですっ!」
追いかける天元を、キャッキャッと楽しそうに交わす陽華。この小競り合いはしばらくの間、続いた。
・
暗く淀んだ部屋に、義勇は横たわっていた。
僅かに湿り気を帯びた空気が、息を吸う度に肺の中に充満し、その不快感で義勇は顔を顰めると、薄く目を開けた。
(ここは…どこだ?)
身体を動かすと、体に鈍い痛みが走り、義勇は自分の身に何が合ったのかを思い出した。
(そうか…、俺は壁の中に…、)
あの時、突然開いた壁。吸い込まれるように取り込まれたが、壁の先は下り坂になっていて、義勇は転がるように落ちていった。
「つっ…、」
ゆっくりと身を起こし、義勇は辺りを見回した。