第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「胡蝶、これはなんだ?」
「冨岡さん、ちゃんと表の説明見てきましたか?この屋敷はただの迷路じゃありません。一つ一つの部屋が伽羅倶梨仕掛けになっていて、謎を解かないと先には進めない仕組みになっているんですよ」
「そうなのか」
嬉しそうにはしゃぐ陽華に集中しすぎて、表の説明などきちんと見てなかった。
もし、陽華と二人だったら迷子になっていたかもしれない。
「俺はこういうのは苦手だ。後は頼む」
「冨岡さんの硬い頭じゃ、そうでしょうね。では、大人しくしててください」
しのぶが笑顔で言うと、義勇は少し心外そうに肩をすくめる。そして、しのぶの邪魔にならぬように部屋の隅に身を置くと、しのぶの作業を見守った。
しかし、手持ち無沙汰になると、頭に浮かんでくるのは最後に見た陽華の不自然な笑顔ばかりだ。
(なぜ…急に……)
少し前まであんなに楽しそうにはしゃいでいたと言うのに。
義勇は目の前で、作業に勤しむしのぶに視線を向けた。
(胡蝶と…話してからだな…)
何を話していたのか、しのぶに聞いてもいいだろうか?しかし、高確率で教えて貰えない気がする。
義勇が思いあぐねいていると、視線に気付いたしのぶの肩がピクッと震えた。
「何でしょうか、冨岡さん?私に、何か聞きたいことでも?……まぁ十中八九、陽華さんのことだと思いますが」
しのぶが背を向けたまま、義勇の顔を見ずに問いかける。
「…なぜ、わかった」
「視線に熱を感じましたから。…気になりますか?私が陽華さんと何を話したのか?」
しのぶが義勇に振り向く。
「………」
黙って顔を見つめてくる義勇に、しのぶは軽く微笑むと、唇に人差し指を当てた。
「フフ、乙女の秘密です」
「言うと…思っていた」
「冨岡さんにしては勘が鋭いですね。大丈夫ですよ、悪いようにはしませんから」
そう言うと、しのぶは作業に戻る。
これ以上は聞いても無駄か?義勇は諦めると、腕を組み、後ろの壁に寄り掛かった。すると……、
「あっ!!そこはダメですっ、冨岡さん!」